2019年10月12日(土)
福岡の朝は風が強かった
東の空は暗く、西の空は明るかった
台風19号が日本を襲う前夜、最終の新幹線を6時間立ちっぱなしで逃げてきた自分は猛威の直撃を免れた日本列島の西の端を南下した
7月21日から始まり、その約5割に参加したHKT48の九州7県ツアーも、追加された最終公演を含めて残すところ3会場となっていた。次の佐賀会場は同日に北海道でAKB48のツアーがありそちらを取ったので行くこと叶わず、2週間後にホーム福岡で行われるツアーの最終公演はセットリストが大幅に変わることが公式の予告文章から推察されるので、ツアーとしての体を成す公演はこの熊本公演が自分にとってラストであると思われた。
自分にとってAKB48とともに今年の夏を彩ってくれたHKT48のツアーの感想をどこかでまとめて書きたくて——ツイッターに短く小刻みに書くのも一興だけれど——こうしてはてなブログを開設するに至った。
強行スケジュールが堪えたのだろう、夜公演が始まる20分前、自席でのんびりしていたらいつの間にか眠ってしまっていた。ゴーン…ゴーン…ゴーン…という鐘の音で起きた。ステージにはあの支配人の祭壇をイメージさせるセットが置かれており、丈の長い重たそうな制服を着たメンバーが厳粛な雰囲気で登場し整列するその合図の鐘だ。いきなりテンションを上げなくて良い構成は助かった
1年ごとに支配人との思い出を回顧する台詞には適宜アドリブが加えられていた
そして松岡菜摘さんの号令で客席全員が起立。ぼんやりとしかしステージにフォーカスされた意識は鮮明に尾崎豊の「卒業」を捉えた。(2会場目くらいから悟ったが、このツアーでは冒頭の「卒業」を恥ずかしがらずちゃんと歌うと楽しい)
“あの支配人からの卒業”がこのツアーの大きなテーマである。指原莉乃という偉大過ぎる存在を失ったHKT48にとって避けては通れない課題を真正面から捉えた素直なテーマだ。そしてそれは支配人から完全に脱却したHKT48を見せるのではなく、支配人の影をそこここに感じさせながら、今まさにHKT48にとって彼女が適切に過去の存在となる変容期を見せるものである。
いつものovertureが鳴り響き、早着替えをしたメンバーが中央に並べられた可動式箱型ステージの上から下りてくる。M02「桜、みんなで食べた」だ(M01は卒業)。数年前のSSAやさくなこを送り出す北九州で桜の花びらを過剰に落とす演出と結びつくが、近年HKT48では卒業生を送り出す印象的な曲として桜食べが存在感を増している。「指原莉乃卒業コンサート@横浜スタジアム」と「指原莉乃大感謝祭@マリンメッセ福岡」が繋がっていたように、惜別の感情を帯びる曲をまるで未練を断ち切るかのように一曲目に持ってきた。
コンサートの始まりだ。
M03 ぶっ倒れるまで
M04 初恋バタフライ
M05 早送りカレンダー
ここは踊るのが楽しい
M06~M12がユニットパートになる
昼夜で2パターンを披露するのがツアーの常套手段となっている
[Aパターン]
M06 バグっていいじゃん(石橋颯・上島楓・水上凜巳花・日替わり5期生メンバー)
M07 ハッピーエンド(田島芽瑠・小田彩加・渡部愛加里・日替わりメンバー2名)
M08 愛しさのdefense(運上弘菜・松本日向・水上凜巳花)
M09 この涙を君に捧ぐ(豊永阿紀・渕上舞・松岡菜摘・日替わりメンバー2名)
M10 右足エビデンス(松岡はな・宮崎想乃・村重杏奈・本村碧唯)
M11 火山灰(田中美久)←熊本では「わたしのふるさと」
M12 カモミール(石橋颯・上島楓・日替わりメンバー7名)
[Bパターン]
M06 お願いヴァレンティヌ(石橋颯・上島楓・水上凜巳花・日替わり5期生メンバー)
M09 遠距離ポスター(運上弘菜・渕上舞・松本日向・水上凜巳花・宮崎想乃・日替わりメンバー2名)
M11 涙の表面張力(豊永阿紀)
M12 カモミール(石橋颯・上島楓・日替わりメンバー7名)
石橋颯さん、上島楓さん、水上凜巳花さんはお陰様でもう100%分かるようになった(くどはるも分かる)
三者三様にいいなあと思える部分があって加入からまだ1年経っていないのが信じられないくらいHKT48の一部として認知してきている
月並みだけれど5期生のこれからが楽しみだ
「愛しさのdefense」は異彩を放っている
「僕の太陽」公演のともちんのユニットだなと思考がひと昔前に飛ぶ
昼公演の「この涙を君に捧ぐ」では豊永阿紀さんがジャケット衣装を着忘れてしまい、ステージに出る直前シンメトリーに位置する渕上舞さんが咄嗟の判断でジャケットを脱いで出た
引き算の発想でフォロー、すごい…
本村碧唯さんの本領発揮をチラチラ見つつ、宮﨑想乃さんの頑張りに心で声援を送る。長い手足が生かされる振り付けなのでとてもカッコイイのだが、ダンススキルはまだのびしろがある。ところで松岡はなさんのダンスがこれまたすごい、特に首の角度が生み出す1ポーズ1ポーズのカッコよさはダンススキルの地力を感じさせてくれる。
松岡はなさんといえば「切ないリプライ」の衣装でも思うのだが丈が短い。スカートもパンツも。足を惜しみなく見せる担当かしら
兒玉遥さんと宮脇咲良さんの曲「タブーの色」を松岡菜摘さんと本村碧唯さんが歌っている。なつあおは今同居して暮らしている。1期生でキャプテンを務める二人が大きなHKT愛でグループの屋台骨を支えてくれている。尊いデュエットである。二人を推しているファンは今この時系列を踏まえた上でぜひ目に焼き付けておくべき瞬間だろうと思う
田中美久さんは「火山灰」を歌っていたが、今回は地元ということで「わたしのふるさと」に変更された。この曲は2017年の49th選抜総選挙の公約が実現に至ったもの。たぶん初披露。途中感極まる様子もあったが歌いきっていた。普段から熊本愛を感じさせるみくりん、ホームの雰囲気に包まれながら我々を包んでくれたように感じる
「カモミール」は武田智加さんセンター曲だが今回は地頭江音々さんが務めていた。映像倉庫のメイキングで坂口理子さんがこの曲の落ちサビを誇張して振りコピするシーンがあるのだが分かりみが深いので常に思い出してしまう。また今村麻莉愛さんが裏センターで踊っているのを見てグループ内の競争の激しさを痛感する曲でもある
さて、コンサートはここで小休止に入る。MCののち、指レンジャーが登場する『寸劇』の時間だ
初日の福岡公演では学芸会感が強くて中だるみした印象があったのだがメンバーもそれは危惧していたようで、ストーリー重視・コーナー縮小などスタッフに要求しながら毎公演行われけっこう楽しく見られるものに進化した。
ここでは詳述は控えよう。最終公演を運よく見られて気が向いたら書くかもしれない
寸劇直後はMCが連続する。ファンからのアンケートを読んで質問に答えたりする。田中菜津美さんがいると非常に安定する
M13~M22、メドレーパートに突入する
初日は泥棒楽曲の[Bパターン]が昼夜繰り返されたのだが直後ファンから不満が溢れ、次の北九州公演から[Aパターン]が追加された。ちなみに初日は撮影可能タイムも無く同様にSNS上に文句が噴出していたが北九州公演から設けられた。
これは凄いことだと思う。せっかく準備したものをファンの声を受けて組織として変更を決めてその為の準備をし直すのは簡単ではない。しかしHKT48の魅力的な楽曲群がメドレーで見られたり、毎公演生み出されるメンバーの神レス映像群はファンの熱を繋ぎとめることに大きく寄与している。英断であり、実行力はある程度の称賛に値する
[Aパターン]
M13 黄昏のタンデム
M14 夏の前
M15 アイドルの王者
M16 泥のメトロノーム
M17 人差し指の銃弾
M18 既読スルー
M19 キスが遠すぎるよ
M20 空耳ロック
M21 君のことが好きやけん
M22 HKT城、今、動く
[Bパターン]
M13 風は吹いている
M14 僕らのユリイカ
M15 春はどこから来るのか?
M16 暗闇
M17 誰のことを一番 愛してる?
M18 前のめり
M19 キュン
M20 夢へのルート
M21 ジコチューで行こう!
M22 #好きなんだ
メンバーが入れ替わり立ち替わり出てくる。かつて全員センターなんて企画もやっていたが、こうして出演メンバー全員が忙しなく動きそれぞれに役割が与えられるというのは実は重要なことだと思う。一曲一曲が短いので残念であるが、他方多くの曲を楽しめる利点も忘れたくない
M23 控えめI love you !
M24 74億分の1の君へ
続いて撮影可能タイムである。席位置とメンバーの動線とアイコンタクトの運にドキドキする時間だ。各メンバーが通路を右往左往するのだがうちわの出来がよくないと見つけてもらえなかったり、逆に全ての客席を見渡して100%見つけるメンバーがいたり、回数を重ねても味わい深いものがある。レスって単純に嬉しい
前向きにインカメで構えてたら写り込んできてくれた!
— フリサポ (@free_supp) October 12, 2019
めちゃかわ😆😆😆#本村碧唯#HKT48九州7県ツアー pic.twitter.com/PHTRy3k9rx
そして本編はラストスパートに突入する。
MC4
M25 大人列車はどこを走ってるのか?
M26 止まらない観覧車 [Aパターン] / Make noise [Bパターン]
M27 ウインクは3回
M28 しぇからしか!
M29 大人列車
M30 メロンジュースM31 誰より手を振ろう
「大人列車はどこを走ってるのか?」は言わずもがな「大人列車」のアンサーソングというか続きを表しているのだが、この曲のセンターを務める栗原紗英さんのステージを自分は見る機会が多かった(非選抜メンは3チームに分かれてローテーションでツアーを回っている)。真っ黒な衣装は両腕から振袖のように生地が付いていてそれをひらり舞わせて踊る。その所作の会得具合もさることながら、この曲にかけては気迫を前面に押し出して踊るのでいつ見ても背筋が伸びる
「ウインクは3回」辺りから袖ステージにメンバーがやって来て踊る。特に上島楓さん上野遥さん今田美奈さんあるいは下野由貴さんらはお互いに刺激し合って振り切って激しく踊る。いつか首取れるんじゃないか。その様子が心底楽しそうで見ていて笑顔になってしまう。劇場公演出演回数が1000回に迫るはるたん先生と5期生"かえちゃん"の関係性は大変趣深いので輪をかけて幸せな気持ちになるのである
大人列車おじさんは「大人列車」を見て聴いて踊っているときが一番幸せです。
本編ラストの曲フリでは本村碧唯さんが「次が最後の曲です」を言う。すると会場は「えぇぇ~~」とお決まりの大合唱をし、それに対し碧唯さんは「ダメ~」と返す。このやりとりを2,3回繰り返すのがこのツアーではお決まりになった。(ダメ~がいちいちかわいい)
ちなみにアンコールラストの同様の曲フリは松岡はなさんがしているが、会場からの「えぇぇ~~」については清々しいほどガン無視をするので対照的で面白い。
[アンコール]
EN1 ロックだよ、人生は…
EN2 最高かよ
MC6EN3 12秒
アンコール1発目「ロックだよ、人生は…」ではメンバーが客席から出てくるのが恒例になった。この演出いつからあったっけ。サインボールは取れそうにないがメンバーが近くに来てくれるセカンドチャンスだ。ホール規模になると2階席のファンの満足度をいかに高められるかは重要課題であり、これに貢献している。
「あれあれ全然聞こえませーん」の煽りは松岡菜摘さんが引き継いでいるし、ツアーTシャツをざっくり切っておへそを出す着こなしは本村碧唯さんが引き継いでいる。
「12秒」冒頭の「よっ!よっ!よっよっよっよっ!」コールは引き続き田中美久さんが務めている。
終演後はお見送りがある。これも初日には無かったような気がする。
お見送りと撮影タイムでオタを喜ばせておくというのは皮肉に使われるほど効果的だが事実ではある。ので素晴らしい取り組みなのだが、そこだけに囚われずコンサートの中身もちゃんと見たいよねとは思う。
総評に移る
■開催日時
熊本県/熊本県立劇場 演劇ホール
・10月12日(土) 開場11:00/開演12:00
・10月12日(土) 開場16:00/開演17:00
<出演メンバー>
上野遥、田島芽瑠、田中菜津美、田中美久、豊永阿紀、松岡菜摘、渡部愛加里、今田美奈、運上弘菜、地頭江音々、深川舞子、渕上舞、村重杏奈、本村碧唯、荒巻美咲、今村麻莉愛、小田彩加、栗原紗英、清水梨央、松岡はな、松本日向、宮崎想乃、石橋颯、市村愛里、上島楓、坂本りの、田中伊桜莉、長野雅、水上凜巳花
[日程](*=行った/行く予定の公演)
7月21日(日):福岡県・福岡サンパレス ホテル&ホール(2回公演)*
8月4日(日):福岡県・アルモニーサンク北九州ソレイユホール(2回公演)
8月18日(日):福岡県・大牟田文化会館 大ホール(2回公演)
8月31日(土):鹿児島県・鹿児島市民文化ホール 第1ホール(2回公演)*
9月1日(日):宮崎県・宮崎市民文化ホール 大ホール*
9月11日(水):大分県・iichikoグランシアタ
9月28日(土):長崎県・長崎ブリックホール 大ホール(2回公演)
10月12日(土):熊本県・熊本県立劇場・演劇ホール(2回公演)*
10月22日(火・祝):佐賀県・佐賀市文化会館 大ホール(2回公演)
10月27日(日):福岡県・福岡サンパレス ホテル&ホール(2回公演)*
総評として、指原莉乃を失い新生HKTとして歩き出す変容期の有り様が凝縮したツアーだと感じるところである。
両キャプテンが率先して舵を取り、各メンバーがよく奮闘している。何人かに言及しておこう。
ツインプラネットとの仮契約が先日の「サンデージャポン」出演を機に本契約になった村重杏奈さんは一騎当千の活躍ぶりを見せている。特に寸劇では主役級の大立ち回りを見事にこなしているし、以前より視野が広くなったせいかバランス感覚が改善されているので全てのポイントで笑いを生み出せている。本当に目を見張る出色の出来だ。また撮影タイムではファンの隣の席に座ったり、ファンのスマホを取り上げてそのまま曲が終わるまで持ち運んだり破天荒なコミュニケーションを実現している。これについて本人は"HKT48ファンのマナーが良いから安心してこんなことができる、だから私じゃなくてファンの人がすごいんです"と持論を話している。全く以てその通りかもしれない。こうした考え方ができることからも成長が窺える。
初日の福岡公演を欠席した田島芽瑠さんの煽りも特筆すべきレベルである。やはり初日に何か物足りなかったなと思ったのは彼女の不在が大きかったとその後の公演を見て思った。安定した立ち回りはMCでも頼りになるし、彼女が自由に動けることはHKTの血行が良い証拠である
MCといえば田中菜津美さんは相変わらず凄まじい。話を振れば丁寧だし、ボケられれば鋭くツッコみ、適度な自虐も挟める。いるといないとで違いを生み出せる
松岡はなさんのMCも素晴らしいものがある。コーナーの説明を済ませ、話を振り、繋ぎ、相槌を打って、淀みなく進行する。小川の清流のせせらぎが大きな音を立てないように軽やかに存在感薄くMCをこなしている。聴衆にノイズを与えない素晴らしさをこのツアーで感じている
最後に繰り返しになるが松岡菜摘さんと本村碧唯さんは二人で一本の大黒柱を成している。華々しいセンターはみくりんやはなちゃんに譲りながら、裏でスタッフと連携を取りツアーをよりよいものにする不断の努力を重ねているのが伝わってくる。そして二人に共通するのはステージの楽しみ方が上手な点だ。
ステージ上で見せる楽しそうな笑顔は二人の切なる願いが報われている瞬間であり、HKTメンバーを導くあるべき姿なのである
ステージ上で咲く二人の笑顔を、メンバーの笑顔を、また見に行こう——。